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−庫裡から悶々−トップへ                                         (2009/08/12)
    第44回   逆出家老尼の有情無情
 
庫裡から悶々
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第52回 追憶のフィンガー・メロディー

第51回 “きょろきょろ人”

第50回 さあ大変!ハが抜けた

第49回 誰ぞ知る

第48回 国鉄由来の事故さばき

第47回 「○にする」

第46回 ゾロ薬品の普及を妨げるのは誰?

第45回 仏像展余話

第44回 “逆出家”老尼の有情無情

第43回 『K・Y』の政教一致

第42回 消えた檀家

第41回 臆病は隠蔽の母

第40回 撒き餌政治

第39回 串刺しルート

第38回 鈴虫だって「リンリ」と鳴く

第37回 複眼で成功した『おくりびと』

第36回 「笑っちゃう」ではすまない

第35回 語り継ぐ義挙

第34回 良い夢見ようよ

第33回 舌禍読禍宰相禍

第32回 冒頭の終わり


第31回 振り込め詐欺の真犯人

第30回 「老人力」のすすめ

第29回 僧徒たるを悔ゆる日

第28回 偶感「昭和二十年八月十五日」

第27回 仰げば恥ずかし わが師の陰

第26回 横綱の品格

第25回 『黄門さま』いずこ

第24回 戒めの16文字

第23回 百年目の「汚物教師」

第22回 怠慢の「12分」

第21回 物言いの一番

第20回 沖縄戦集団自決の真相究明に妥協は許されない

第19回 落ち葉して木々凛々と

第18回 『広辞苑』と私

第17回 子なき家

第16回 “軽老精神”

第15回 5W1Hプラスα

第14回 教育勅語から酌むべきもの

第13回 失われたニッポン人のDNAは再生出来るか

第12回 助けられたり助けたり

第11回 怯懦な共犯者

第10回 「最良のもの」探す日々

第9回 内角の和の中にをり石鼎忌

第8回 世直し先生は街角にいる

第7回 ある天文学者の遺言

第6回 壊れる家々の悲鳴

第5回 嗚呼!硫黄島−兵士たちの慟哭が聞こえる


第4回 よく聴けよ!柳沢大臣

第3回 無機質な社会の中で


第2回 義挙へのもどかしさ

第1回 ついの棲み家は姥捨山

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 カモン!ルーシー
とかくこの世はははんほほう話


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 檀林風発 
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肇道和尚の「如是我聞」

 仏教関係の情報誌の人事消息欄にたった1行、「僧籍削除」として尼僧の名が掲載されていた。終身職が当たり前の坊さん社会で身分を剥奪されたり、僧侶としての戸籍を削除されるとは穏やかでない。
 その名前には心当たりがあった。20年前、愚息が僧階取得のために修行した際の修行仲間で、当時はお寺の住職の奥さん、大黒さんだった。子宝に恵まれなかったため、住職にもしものことがあった場合に備えて自らも僧籍を得ようとした「尼僧志願」と映ったが、どうやら本当の狙いは寺の後継者探しにあったらしい。

 「ボクは寺の次男坊(だから僧籍を取得しても坊主になるとは限らない)」。愚息の不用意な発言が彼女の耳に止まり、「ウチに来ないか」と誘いを受けた。お断りして話は立ち消えになったが、晴れて尼僧となってからも、彼女は若い坊さんたちの集まる講習会で寺の後継者探しを数年間続けていたようだ。

 「こんな過疎地のお寺に来てくれる奇特な人はいません」。そんな愚痴めいた便りが届いた後、宗報の講習会受講者名簿から尼僧の名前は消えた。後継者探しを断念したのだろう。私たち父子も尼僧のことを忘れていた。

 尼僧が僧籍を削除されたのは、夫の住職の訃報が宗報に載った数ヵ月後の今年5月のことだった。
 「あんなに後継者探しに熱心だった人が……きっとナニかある」。
 20数年前まで新聞記者だった私の好奇心が目を覚ました。

 知人の尼さんらを取材して回った。住職が亡くなった後、寺を出たことは判ったが、事のてん末や転居先は不明だった。
 その後「何かあったらしいが、もう済んだこと。余り詮索しないほうがよい」と知らせてくれる人があり、どうにか転居先だけはわかった。

 7月上旬、京都の本山への所用ついでに、関西地方に住む件の元尼僧を訪ねた。だが、留守だった。医者に通っているという近所の人も病院の名までは知らなかった。しばらく待ち、2、3の医院も回ったが、その日はお会いできなかった。新幹線の接続電車も数少ない田舎町とあって日帰り調査は侭ならない。やむを得ず、ガラス戸の隙間から置き手紙して帰宅した。

 数日の後、電話があった。当方が手紙を突っ込んだところが普段使っていない部屋だったので発見が遅れただけで、返事に時間を要したことに深い意味はない様子だったが、語ってくれた真相は衝撃的だった。

 やはり冷たい仕打ちを受けていた。亡き夫と自分の生前墓まで残して寺を追われ、騙されて僧籍削除の印を押させられたのだという。悔しさ、無念さはぬぐえない。寺への未練もある。それでも、ゴタゴタして過ごすよりはさっぱりしたと、自分に言い聞かせるような口ぶりだった。
 心和む話も聞かされた。「檀家の皆さんや教え子さんたちが心配して毎週交替で、お米と野菜を持って来てくれはりますの。感謝してます」。生活苦への心配が杞憂とわかったのは何よりで、ひとまず安堵した。しかし、人権侵害、人倫にもとる老人いじめの被害は深刻である。ふと漏らしたところによれば、老尼は82歳。戦前の奈良女子高等師範(今の奈良女子大)に学んだ。
 不運にくじけぬ健気さも、周囲への感謝の言葉も、最高学府出身の矜持と教養から生まれるのであろうか。

 一般的には、尼僧や寺属と呼ばれる人々の立場は弱い。
 私の周辺にも後継騒動に敗れた副住職が、高齢の実の母を人質同様に取られるような格好で寺を追われ、糊口の道を絶たれ、老母との面会も介護も侭ならないという状況下にある。“聖職”の内幕は複雑である。

 最近、件の元尼僧から精米が贈られて来た。「貴方との出会いを(元の)檀家さんや教え子にお話したら“ありがたい”いうて、皆でお金出しおうて“貴方へ贈ってあげて”と下さった。貰うてあげて」と添え状にあった。

 気象異常の昨今、その地方にも大雨被害が伝えられた。見舞いの電話口の彼女から「たった今、お寺の世話人さんが見舞ってくださってお帰りになったところや。隣町のお寺にも連れてってもろうた」とのことだった。多くの人々に慕われ、支えられている様子が、話のはしばしから伝わってくる。寺を去っても、檀家の人々にとって老尼は「お寺の大黒さん」であり続けているのだろう。
 惜しい人の僧籍を削除したものだ。







和尚が聞く!‐NYOZEGAMON INTERVIEW‐

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