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−庫裡から悶々−トップへ (2007/11/23)
     第18回   『広辞苑』と私
庫裡から悶々
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第35回 語り継ぐ義挙

第34回 良い夢見ようよ

第33回 舌禍読禍宰相禍

第32回 冒頭の終わり

第31回 振り込め詐欺の真犯人

第30回 「老人力」のすすめ

第29回 僧徒たるを悔ゆる日

第28回 偶感「昭和二十年八月十五日」

第27回 仰げば恥ずかし わが師の陰

第26回 横綱の品格

第25回 『黄門さま』いずこ

第24回 戒めの16文字

第23回 百年目の「汚物教師」

第22回 怠慢の「12分」

第21回 物言いの一番

第20回 沖縄戦集団自決の真相究明に妥協は許されない

第19回 落ち葉して木々凛々と

第18回 『広辞苑』と私

第17回 子なき家

第16回 “軽老精神”

第15回 5W1Hプラスα

第14回 教育勅語から酌むべきもの

第13回 失われたニッポン人のDNAは再生出来るか

第12回 助けられたり助けたり

第11回 怯懦な共犯者

第10回 「最良のもの」探す日々

第9回 内角の和の中にをり石鼎忌

第8回 世直し先生は街角にいる

第7回 ある天文学者の遺言

第6回 壊れる家々の悲鳴

第5回 嗚呼!硫黄島−兵士たちの慟哭が聞こえる


第4回 よく聴けよ!柳沢大臣

第3回 無機質な社会の中で


第2回 義挙へのもどかしさ

第1回 ついの棲み家は姥捨山

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 カモン!ルーシー
とかくこの世はははんほほう話


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肇道和尚の「如是我聞」

 旧制中学の入学祝いにもらった新村出編纂の『辞苑』が、今も手元にある。奥付には昭和13年発行、182版、発行所は博文館とある。初版は昭和10年だった。
 跋(ばつ、あとがき)によれば「国運の急激な進展に伴って誕生した幾多の新造語や国語化した外来語をはじめ人生に緊切なるすべての事項を包含して」15万8164語を網羅した、とある。定価4円50銭のところ特価3円70銭だった。
 その『辞苑』が経営や人的な紆余曲折を辿り、活字組版は空襲をかいくぐって『広辞苑』(第一版)と名を変えて岩波書店から再版されたのは、終戦後の昭和30年のことだった。

 その『広辞苑』の編者でもあり、歌人しても知られる新村出博士は生前こんな一首を詠んでいる。

  広辞苑ひも解き見るにスモッグと
      言ふ語なかりき入(い)るべきものを


 『広辞苑』が世に出た当時、英語のスモーク(煙)とフォッグ(霧)との合成語である「スモッグ」は、まだ一般には普及していなかった。そこで採用を見送ったのだが、これほど大気汚染が深刻な社会問題になり、スモッグという言葉が頻繁に使われるのなら加えておくべきだったなあ、と慨嘆されたのである。
 生き物としての言葉を扱う辞書の編纂者としては、時代の変化を敏感に受け止め、機敏に対応しなければならない、との自戒の念を込めてのことだろう。

 新村博士の遺志を継承するならば、来年1月に刊行される『広辞苑』第六版に1万項目が追加され、カタカナ語や情報通信用語、金融・経済用語などがふんだんに盛り込まれたというのは、至極当然の成り行きだ。もっとも「うざい」「めっちゃ」「ラブラブ」「逆切れ」といった流行語まで加えられたことには、いささか戸惑いを感じないでもない。
 若者言葉が理解できない高齢者の要望に応えたというが、権威ある国語辞典が認知すれば、この先、立派な日本語として通用することになってしまう。語感や響きの美しさの点で、果たして好ましい言葉と言えるのか。

 新しい言葉が定着するかどうかは、社会が決めることだ。私一人が歯ぎしりしたところでどうなるものでもないが、“老爺”心ながら将来に不安を覚えてならない。
 テレビのバラエティー番組などを見ていると、悪貨が良貨を駆逐するように、美しい言葉や優しい言葉が、がさつで下卑た言葉に淘汰されていくようで悲しくてならない。含蓄のない薄っぺらな言葉が拡がれば、人々の感情も保湿性を失い、パサパサに乾いていくのではあるまいか。

 アマノジャクな私としては、『広辞苑』に追加された新語よりも、消えてなくなる言葉が気にかかる。『広辞苑』の変身を報じる各紙を読んでも、削除される言葉があるのかどうかさえ分からないので、岩波書店に問い合わせてみた。

 『広辞苑』編集部によると、誤りが判明した固有名詞などを例外的に削ることはあっても、基本的には追加するだけなので、版を重ねるごとに収録語数が増えているのだそうだ。6版の総収録項目は24万に及ぶという。では、使われなくなった言葉は? 「はい、そのまま古語として収録しています。流行語から古語まで、がキャッチフレーズですから」。編集部の答えは明快だった。
  • ※一度登録されながら削除された例外ケースとして、初版にあった「おおあつあつ」(あつあつな恋愛の意)。出典や使用した証明が取れず、2版からボツとなった。
     捏造が発覚した「上高森遺跡」も新版の6版から削除される。人名の削除は日本人の物故者に限定されている。
 そこで、『広辞苑』は重版される度に、新語辞典と共に“死語辞典”の色合いを深めている、との皮肉な見方もできる。ありがとう、すみません、恐れ入ります……も満足に言えないボキャ貧(語彙が乏しい)若者には、ますます無用の長物になるのかもしれない。

 人気作家の井上ひさしさんは原稿を書く時、いつも『広辞苑』を左手にささげ持ち、少しでも気になった言葉を確認しながら書き進めているそうだ。背表紙の真ん中にある岩波の「種まく人」の刻印を、親指の滑り止めとばかり思っていた、とも聞いた。言葉を大切にするならば、文字通り、辞書は片時も手放せないということだろう。

 私もまた、どんなに電子辞書が便利でも、『広辞苑』を傍から離さないと思う。









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