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神田紅さん インタビュー
講談師 神田紅さん インタビュー

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神田紅先生
     山陽先生は艶福家

 ――それにしても、大看板の山陽先生が一元の客で、講談を聞いたこともないという紅さんを相手に、よく一席語ってくれたものですね。
 なかなか真似ができませんよね。適当にあしらわれても仕方がないところです。後でわかりましたが、師匠は斜陽化していた講談界を復活させるには女流しかない、と考えていらしたんです。そこへ私がタイミングよく飛び込んだ、といっためぐり合わせだったように思います。当時は講談師が24、5人。女流もいましたが、たった3人でした。今では東京の講談師は60人を超え、うち女流が30数人とわずかながら過半数を占めています。講談界は依然として“男社会”ですけれど、最近の人気復活に女流が貢献していることは間違いありません。師匠に先見の明があった証拠です。

 ――それなのに、山陽先生は「鼻の下を伸ばし、女流ばかりかわいがる」と陰口を叩かれたとか。実際に“女好き”だったんですか?
 いい意味で好きでしたね。遊び人でしたから(笑い)。戦前はずい分浮き名を流したそうですし、戦後も奥さんのほかに好いた人がいたようです。旧満州や朝鮮半島にも販路を広げていた大阪屋号書店という書籍取り次ぎ店の二男坊だったのですが、ご長男が早世されたため跡継ぎとして大事に育てられたんですね。それで、実際に後を継いだら、“お旦”ですから、好きな芸事に一財産をつぎ込んだり、銀座でダンスホールを経営してご自身も社交ダンスの先生をしたり……、やりたい放題だったようです。「本当に辛かった。好きな女とは現世では一緒になれないものさ」と言って、ブロークン・ハートの艶っぽい体験談を聞かせてくれたこともあります。何でも奥さんに気兼ねして身を引いた女性がいたらしく、別れてからしばらくは、高座に上がるとついつい客席を見回して、女性が来ているのではないかと探してしまう、といった話もありましたね。後日、仄聞したところでは、別れて10年ぐらい経ってから一度、その女性が客席に現れたことがあったそうです。師匠は講談なんか放り出して女性の元に駆け寄りたかったんじゃないかなあ。我慢して高座を務めていたと思うのですが、講談はメロメロになってしまった、と聞きました。ご住職も、艶聞には事欠かないのではありませんか?
2008年6月
 ――いやいや、私は御仏に仕える身ですから(笑い)。それにしても山陽先生は随分と粋な方だったようですね。
 ご自分では「飲む、打つ、買う」ではなくて「指す、舞う、語る」なんて言っていましたけど多芸でした。「指す」とは趣味の将棋のことです。泰然自若としていて、いつもニコニコ笑っているんですが、女性に関しては私たち弟子を含めて、どのタイプでもまんべんなく愛してくれるんですね。誰にでも優しかったですよ。遊び人のくせに大変な読書家でもあって、マルクスの「資本論」なんかも読破していて、東大で倫理学の教授をしていた息子さんと電話でマルクス原論だかをめぐって、よく議論するところも目にしています。

     師匠、偉大なり

 ――講談はやはり口伝で教わったのですか?
 それがただの口伝とは違うのです。ふつうなら師匠がお手本に一席語り、テープに録音して、弟子がそれを聞いて稽古をしてくるのですが、うちの師匠はまず自分が一節ずつ細かく語ってテープレコーダーに録音し、その後に弟子に語らせたものを録音します。そして、巻き戻しながら、「ここは声が上がりきっていないだろう?」などと指摘し、師匠のテープと聞き比べをして、「ほら、こうやって声を上げて」といった具合に指導してくださったんです。科学的かつ合理的でしょう? 頭でっかちだった私に合わせてくれたのかもしれませんね。弟子ごとに教授法を工夫してくださっていましたから。私は論理的な指導を受け、納得、納得の連続でした。当時は珍しかった家庭用ビデオを使って、目線の位置なども細かく教えてくれたんですよ。

 ――古典芸能の稽古では、口伝による指導の録音はご法度とされたりもしているようですから、山陽先生は随分、進んだ考え方をされていたのですね。
第23回 講談教室 テープがあれば、繰り返しお稽古もできますし、効率的ですよね。万事に弟子本位で考えてくださって、普通ならば新弟子には2、3年は基本中の基本とされる「修羅場(ひらば・戦の場面を語る時の調子)」を叩かせて、講談の語り口を徹底的に覚え込ませたりするんですが、師匠は違うんです。“稼ぎネタ”から順に教えてくださった。お客さまにウケる「世話物(落語で言う人情噺)」や駆け出しの講談師でも演じやすい物語を選んで、先に教えてくれた。何とか講談でやっていけるように、と配慮してくれていたんでしょうねえ。だから、「お富与三郎」とか「忠臣蔵」の「南部坂雪の別れ」とか習ったのは、早かったですよ。「そんなのは真打になってからだ」というネタでも、師匠は頓着しませんでした。
 それなのに、弟子の私の方はひどいこともしちゃって……。師匠は夜型人間の典型でして、睡眠薬を常用していて、昼まで寝ているんですね。だから、弟子は午前中はお宅に行っちゃあいけない。昼過ぎに師匠の家に行き、掃除やら前座としての仕事をこなす。夕食には店屋物を取ってくれて、師匠と奥さんと3人で食べ、夜はテレビを一通り見て、10時ぐらいからお稽古をつけてもらうんです。それでお小遣いをもらって帰ってくるのですが、何しろスタートが遅いから、すぐに12時、1時になってしまう。すると「もう電車がないだろう。朝まで稽古していきなさい」ということになり、4時、5時まで稽古を続けてくれるんです。で、深夜に稽古をつけてもらっていると、つい、眠気に負けてコックリ、コックリしてしまうんです。「では、紅くん、やってごらん」という師匠の声にハッとして目が覚めたりしてね。朝、自宅に帰り、カセットテープを回してみると、しっかり録音されているんですよ、師匠の講談が。弟子が居眠りしている間も、師匠はちゃんと語り続けてくれていたんです。悪かったな、と反省してますが、若かったし……。

第24回 講談教室 ――大きくて、素晴らしい方ですね、山陽先生は。
 つくづく良い師匠に恵まれたと思います。発想は柔軟だし、講談の可能性は無限だと考えていらっしゃって、何でも受け入れてくださった。日本舞踊を習っていると知って、「紅くん、君は必ず高座で踊るんだよ」とおっしゃったり。ふつうは大した芸でもないのに駄目、って言うところでしょうが、「奴さん」でも何でもきちんとプロに振付けてもらって踊ればいい、と言うんです。私がデビューして、踊ったり、照明を活用していた頃、「あれは講談じゃない。講談ショーだ」なんて散々陰口を叩かれても、師匠はすまして「これでよろしい」と勇気付けてくれたものです。今、自分が神田陽司、神田紅葉、神田蘭という3人の弟子を持つ身になって、改めて山陽師匠の偉大さをかみしめています。私もまた、師匠と同じように弟子を育てたいものだと思いますし、たとえば“稼ぎネタ”から教えたり、自然に師匠がしてくださった通りのことをしていたりもするんです。

     “紅講談”のこれから

 ――山陽先生との出会いが、紅さんの今日につながったのですね。講談師としてはもちろん、人としてもお幸せな軌跡だと思います。これからはどのような講談師を目指していかれるのですか?
 どんな、というのは、ないですね。なるようになる、なるようにしかならない。どうなるかは周りが決めてくださるものだと思います。ただ、古典講談の復活はやっていきたいんです。今年も「篤姫と和宮そして西郷」という作品を書いて演じています。「皇女和宮」という古典講談があるのですが、誰もやっていません。西郷隆盛についても長い長い講談本があり、篤姫も和宮へのいじめ役としてちょっとだけ登場するのですが、あまり注目されていませんでした。この2本の古典をもとに、幕末から明治の初め、自分の意志を貫いて大義に生きた3人を同時に、私流に描いてみました。折からNHKの大河ドラマに篤姫が登場していることもあって、埋もれていた古典講談を今の時代に蘇らせたい、と思ったのです。それと、“学問の神様”で知られる菅原道真についても、「天神記」という古典講談を作り直しています。九州の西鉄が今年創業100周年を迎えたことに合わせた企画ですが、右大臣にまで立身出世を遂げて栄達を極めた道真が、権力者に中傷され、大宰府に左遷される。その一代記をサラリーマンの視点で、現代の物語として捉えてみたいのです。
紅さん
 ――城源寺フォーラムも末永く、よろしくお願いします。
 こちらこそ。講談教室と一席というスタイルで続けてきましたが、自分でもっと演じたいという熱心な講談ファンがそろって、講談教室を独立させられるとうれしいのですが。短いものばかりでなくて、きちんとした一席をお教えしたいのです。現在、東京と福岡で定期的な講談教室を開催しており、そこからアマチュア講談師が続々と誕生しています。ご住職のお陰でご縁ができた小田原からもぜひ、講談師が育ってほしいと願っています。

(Interview:2008-06-22)
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